川辺川源流大小屋谷

「渓流の釣師は川を上流に移動しながら釣っていく」

この一見常識ともいえる渓流釣りのスタイルに鋭いメスを入れ、
ヤマメ君やイワナ君たちの秘密の生態をあばく。

なぜ渓流では釣り上がるのか?


 渓流のサカナは常に上流を向いて流れてくるエサを捕食している。釣り人は、鳥の影が射しただけでも岩陰に隠れてしまうほど敏感なヤマメたちに見つからないよう下流から忍び寄るのである。ふつう、滝や落ち込みは下流の方が開けており、実際上は下流からしかアプローチできないという理由もある。

 しかし、これが本当の理由だろうか?なにか真実が隠されているのでは?

 植物が虫に襲われると、アルコールのような情報伝達物質を放出して付近の植物に敵襲を伝えるらしい。虫に喰われないように葉を苦くして防御するのだそうだ。草原のキリンは、それを知っているので風下から木の葉を食べていくという。ワタシはこれをテレビで知った。
蜂なんかでも、敵に襲われるとフェロモンのような興奮物質を放出して巣の全員が防戦態勢に入ることが証明されている。(らしい)

 じつは渓流魚たちもこれをやっているのだ。
「おいっエサが流れてきたぞ。オマエ行け!」
「いっただきー」
  ここでヤマメB釣られる。エサを見て出かかったα-ヤマメ型エンドルフィンが一瞬にして凍結する。ファイトのあいだ、全身に興奮物質アドレナリンが満ちあふれ、体外に流出することでパニックが伝わる
「釣人来襲!みんな逃げろ!

その他

「逃げろや逃げろ。隠れてしまえ」

「だから注意しろと言ったのに・・・」

 うっかり釣鈎をくわえたヤマメは「だあっ!やられた」というパニック物質をだす。この物質は水にのって下流の仲間たちに伝わり、みんな一斉に隠れてしまう。
 ご存じのように、サケは産まれた川のニオイを頼りに帰ってくる。近づいたら、あちこちの川に鼻を突っ込んでは間違いに気がついてまた別の川を探すのだという。彼らはニオイ物質が1分子でもあれば感知できるという。
 源流で釣り下がる人はいないが、中流域なら下流に向かって釣り下がる釣師も少なくない。水量が多いからパニック物質が薄められてしまい情報が伝わらないからである。だから釣人はポイントに下流から近づき、群れの下端から釣っていく。パニック物質流出のスキを与えないよう素早く抜き上げるのである。


(根拠はあまりないけど書いてみました)

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では、なぜ釣人はホラを吹くのか?


 Tちゃんが尺ヤマメを釣ったという。
なぜ匿名にしたかというと、これは微妙に彼の人格に関わる問題だからだ。
Tちゃんは私のイトコで4つ年下、昨年のシーズン始めに渓流釣りを始めたばかりのビギナーである。まだデビュー2年目の彼が、ナマイキにも一人で沢に入って3匹も釣り上げ、そのうちの1匹が30cmを超えていたのだという。聞き捨てならない話だ。
 釣りは大物を釣った者だけが、思う存分に威張れる弱肉強食の世界である。10年以上も渓流に通って、尺モノに出会えない釣師はいくらでもいる。私はTちゃんの何倍も釣りに出かけたし、ふだんからなにかにつけ先輩面をしている。したがって、ワタシの釣果は常に彼を上回らないと非常にマズイ。
 考えてみれば素人クンがいきなり尺モノを手にするのだって、教育上ヨロシクないハズである。尺ヤマメとはかくもココロ騒ぐ獲物なのだ。ヤマメ本人にしたって、尺モノともなると、放流されたての幼稚園生と違って経験豊富なのだから、デビュー2年目の素人クンには釣られてはいけない。

刑 事:「尺モノを釣ったというハナシだが、証拠はあるのか」
容疑者:「ある。自宅に冷凍してある」

ウラをとるため家まで尋ねていくことにした。冷凍庫から出てきたそれは、たしかに鮭のような顔つきをした立派なヤマメである。しかし、どう見ても尺には届かないシロモノ。実際にスケールをあてて測ってみるとなんと26cmしかない。

刑 事:「おらっ!26cmしかねえぞ!」
容疑者:「釣ったときには30cmあった。ちゃんと写真もある」

その写真には、タバコといっしょに並べられたヤマメが写っている。ちょうどタバコ3箱分の長さだ。タバコの箱にモノサシをあててみると8.6cmである。8.6 x 3 = 25.8cm 写真もまた実寸26cm説を裏付ける結果となった。

刑 事:「やっぱ26cmしかねえぞぉ!」
容疑者:「いいや、確かに30cmあった」
刑 事:「釣ったときに測ったのか?」
容疑者:「いいや測ってはおらん。測ってはおらんが、たしかに30cmあったんだわ」
刑 事:「写真も冷凍も26しかねえっ!証拠は揃っとるー」
容疑者:「そんときゃ30cmあったけど縮んだんじゃわ。ヤマメが縮むのを知らんですかァ?」

Tちゃんは測ってもいないくせに実寸30cmを主張するのである。
証拠物件は圧倒的に不利だが、彼はヤマメが4cmも縮むというアッパレな説を楯にいつまでも頑張るのだった。

*後日談*
雨の解禁日に26cm級の入れ喰いに出会ったことがある。彼はその後、この入れ喰いのことを「尺物がいくらでも釣れた」と吹聴していた。どうも彼の中では26cmは尺物のようなのだ。

 

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