|
今年最初の1匹 |
福岡を出発したときは汗ばむほどの陽気だったのに、目的地に近づくにつれてだんだんと寒くなってきた。
山本素石の「終の栖家」にでてくる峠の茶屋を通るころには、辺りに雪が残っているのが目につくようになった。翌日の天気予報は雨である。日のあるうちに宿に着いた。まだほかの釣り客の姿はない。聞けば、冬のあいだはお休みで、私たちが今年最初の客であるという。川が見下ろせる風呂にゆっくりと浸かったあと夕食をいただいた。
自家発電だから、水量があれば電球は明るく、たまになにかの都合で暗く明滅する。
夜が明ける前から雨音がして、雷が鳴り響いていた。
前の晩にお願いしておいたオニギリを持って宿をでる。川1本5時間のコースを予定していたが、増水が危険なのであきらめて近場を攻めることにした。仕掛けが見えないほど暗いうちにポイントに着いたものの、先客を発見して上流へと向かう。
1:安定した岩盤ならいつまでもドロ濁りにならない
2:突然ドロ濁りになったら、それは上流で土砂が崩れ落ちた証拠
3:土の内部が露出したら土のニオイがする。これはもう危険信号
4:急に水量が減ったら危険。即、避難すること。大量の土砂が川を堰き止めた
からである。鉄砲水が襲ってくる
魚止めの大きな堰堤の下で竿を出す。ここでヤマメを4匹つり上げた。綺麗な虹色ヤマメが今年最初の獲物である。尺物が出てもおかしくない場所だが、アタリが遠のいたので場所を変えた。堰堤の下の淵である。雨量が増え、川は笹ニゴリとなって最高のコンディションだ。最初の一投からガツンときた。スケールをあててみると25cmもある。
それほど広い場所ではないのに、大型が次々とあたってくる。
鈎が折れた。上顎に刺さったのだ。ぼくの鈎はミミズをコキ上げるのがやっとの小ささだ。鈎を替える。時合いを逃したくない気持ちから、巻き数が少なかったのか、次の一匹を水辺に抜き上げたときには糸がほどけていた。
解禁日でスレてないからラインは0.6号の通しである。川上から真下に竿を出すのでポイントを探りやすい。下流から近づいてきた釣師が小さな瀬にとどまったまま、こちらが次々と竿を曲げるのを見ている。また鈎が折れた。いつのまにか竿も折れていた。雨で継ぎ手が固くなって、縮めるときに無理をしたからだ。手元から4本目だけど、その上を握ったまま25〜26cmを10本ほど追加した。いい型が出つくしたのか、だんだんと小さくなったのでこのポイントを譲って移動する。
最初の、先客がいた場所に戻った。丁寧に何投も流すけど全然ヒットがない。さすがに場荒れしたものと思える。
冷却時間をつくるため、宿に帰って朝食をいただいた。みそ漬けの豆腐は、チーズかと思うくらいねっとりと舌にまつわる絶品であった。毎朝、おばあさんが作ってくれる豆乳もおいしい。
炭火でヤマメの味醂干しを焼いていると、オカミさんがあらわれて、抽選を手伝ってくれという。昨一年間のこの宿の利用者に、無料宿泊券を10枚引き当てるのである。60cmほどの木箱に用紙がぎっしりと詰まっていて、この中には私の分も紛れ込んでいるはずだ。さらに10枚、今度はヤマメグッズの抽選をして、知り合いの某アウトドアショップのオーナーを引き当てた。その日の宿泊客も一人あたった。この抽選は、その年最初の客の役目とのこと。お礼として、驚くほど巾広のヤマメの薫製を頂戴した。
手持ちの根性とか気力とかが雨で流出してしまったけど、これほど釣れる日にあたることは滅多にない。
スペアの竿とスペアの気力を取りだして、ふたたびウェーダー姿に着替えた。お昼近くなったので0.3号の細仕掛けである。朝食前に出会った親子釣師が36cmの大イワナを仕留めたという。その場所が気になっていたのだ。
吊り橋を渡って、藪の中を高巻きをしていると、36cmの親子が増水で川を渡れずに難儀しているのが見えた。降りていって、道を示しながら聞いてみたら釣果は全部で6匹とのこと。30匹ならもうダメだけど、6匹ならまだ残っているに違いない。場を荒らされると、ヤマメは4時間くらいはエサを摂らないが、イワナの警戒心はそれほどでもない。
水かさが増してポイントが水没しているものの、なんとか1匹を追加してさらに下流を攻める。水が濁って水深が分からないので何回か転びそうになった。ポイントを捜しながら下っていくと、激流の中にトロ場を見つけた。こっそりエサを送り込むと、岩陰から小ぶりのヤマメが釣れた。こんなサイズじゃないはずだ。何回か流すうちにうまくポイントに流れて、すこし誘うと狙い通り26cm級の良型が出てきた。
これで満足して帰りがけに、なにげなく入れた場所からイワナが釣れた。27cmである。荒れる早瀬の水面を0.3号ラインで引っ張りあげて試合終了。イワナの自己記録更新になった。
わかったこと。
パーマークが丸い原種ヤマメは上流に棲んでいて生育が遅い。体高が低く野性的な体型。
長紋の放流種は巾広が多い。個体によっては、頭部が小さくまるでタナゴのように丸い体型である。
|
|
|