2007年 夏- 蛇籠川急降下作戦
山頂より蛇籠川上流を望む

 蛇籠川(じゃろうがわ)は九州最後の秘境である。
30年くらい前の地図で確認したところ、昔は中流に川口という集落があったらしい。そのため上流部は別名で川口川とも呼ばれる。

 この川には西米良村からのアクセスが2通り。 数時間を歩いて源流部から入渓するルートと、横野から一山を越えて、山頂から川に急降下するルートがある。 もうひとつ西都市まで下りて、三財川上流のダムから遡上する方法もあるが、これはぼくらには遠すぎて現実味がない。
蛇籠川攻略にあたっては九州を代表する沢登り師である沢グルメ氏に親切に教えていただいた。

 時間的にムダがないのは川の中部に急降下するルートだ。
地図を見ると山の尾根から川まで50メートルの等高線が5本あり、水平距離もまた250メートルほどあるようだ。水平250mで高低差250mを降り切るとして平均勾配45度。直線距離で350mの計算になる。 時間にして降下45分、登坂1時間か。
 夏の暑い日、ダム沿いの道路に車を止めて、お昼過ぎに登山開始。
釣具と野営道具、夕食一式と翌朝の行動食を担いで山頂を目指した。車が通れるだけの道幅はあるが、入口にゲートのある私道であり、車は乗り入れできない。
記録的な猛暑である。気温も40度近いことは間違いない。 勾配はそうきつくないけど途中で雨に降られた。荷物が重い。

 雨のせいなのか山ヒルの攻撃を受ける。 途中でシカを見たが、あいつらも山ヒルには閉口しているだろうな。熱射病でもうダメかと思ったが2時間半ほどかけてなんとか登りきった。8合目くらいに水場が一カ所あって助かった。 (水場といえどシカのいるような場所の水を飲んではいけないらしい)
 山頂を過ぎ、あと少しで川への下り口という場所で大きな崩落があった。
道路がすっかり落ちてしまっている。横断するには危険すぎるので、手前からの降下を試みた。獣道すらない自然のままの斜面である。計算では45度の勾配だが実感は60度に近い。足元はわるく、立木を手で掴んでくぐり抜けるジャングルのブッシュである。
 せめて杉林であれば人が歩くことは出来るのだが、足元には穴が空いていたり浮き石があったりと困難を極めた。背中の荷物が枝にかかって身動きできなくなる。帽子を取られても、取り返しに行くだけの気力がない。ここに到達するまでにオジサンは消耗したのだ。

  仮に川の近くまで下りれたとしても絶壁の上に出ないという保証はない。足元から崩れ落ちた石がいつまでも止まらずに転げ落ちる。 明日またここを登ってこれるだろうか。 ルートが見つからない。 撤退を決意した。 陽のあるうちに里まで戻ろう。

 山道を2時間歩いてやっと湖畔まで戻った。すでに5時間以上浪費したのだ。あたりは暗い。
西米良で飲料を補給して一ツ瀬川のどこかでキャンプ。
途中、ズボンのポケットの上に手を置いたらなんだかグミのような物が手に触れる。ポケットの隅に綿ぼこりでも溜まっているのか?ちがう!皮膚の上だ!!
ズボンをおろして見ると山ヒルが吸い付いているじゃないか。全然気が付かなかった。いつまでも血が流れ続けて止まらない。

 翌朝、明るくなって景色を見れば、川は台風による崩落の傷跡だらけである。ピラミッドほどの大山が剥きだしになるような大雨が出たのだ。ヤマメも流されてしまっただろう。
 適当な場所を見つけて入渓すると大滝に出会った。
しかし糸を振り込んだとたんにツープッツンとあえなく切られてしまった。ぼくの0.3号仕掛けは35cmまでは余裕で獲れる。それが簡単に切られてしまったのだ。一気に火がついて、 むきになって打ち返している間、ヤマメはいつまでも釣れ続いた。
最初の大物は釣れなかったけど、気が付くと20匹近い大漁になっている。もうダメだろう。経験の深い大物は警戒したに違いない。


 この大滝の大物とはもう一度勝負するしかないな。
念願の蛇籠川釣行は敗退したけど、結果オーライの大漁だから釣りとしては成功の部類だ。
来年また計画を練りなおしてリベンジにやってこようっと・・・。

 たぶん、今回の敗因は、
大量のビール&氷、およびそれらを冷た〜く保つためのクーラー。炭とか網なんぞのバーベキュー道具一式が重すぎたんじゃないかと思う。もうワシラもいい年なんだからまともな装備で臨みたいものだなあ。

山頂より下流を望む
道路崩落につきあえなく敗退。また来るからな。