蛇籠川リベンジマッチ 軽トラ大作戦
蛇籠川の緩やかな流れ


2007年にあっさりと敗退してしまった宮崎県の蛇籠川だが、山を下りる途中で素晴らしい攻略方法を思いついた。素晴らしいもなにもそれは誰もがカンタンに思いつくじつにあっけない方法で、その場で思いつかなかったワシらがバカだったのだ。

 ぼくにヤマメ釣りを教えてくれた某T版印刷のU村さんは「日本とは思えない素晴らしい渓相の川」だと言っていた。これはもう絶対に再チャレンジするしかない。(ぼくはカナダみたいな川景色を想像していたので、実際に入渓してみて、この川のいったいどの辺が非日本的だろう?という印象に変わった)

左側のオトコが大型新人。体長2mくらいある


そこで翌08年(今年のことね)5月の連休にリベンジ釣行を試みた。
今回は前回の反省にもとづき、荷物運搬係の大型新人をスカウトしてきた。さらに四駆の軽トラを準備して山頂攻略のスピードアップを目論んだのである。(別に軽トラでなくてもいいんだけど)
 その結果、 徒歩なら2時間半かかる行程をワープして、労せずして山頂に達した我々は、昨年引き返した崩落の一段上の道路から降下して、まんまと崩落の向こう側に到着したのである。
 しめしめ作戦通りとほくそ笑んだものの、地元の釣人が使っている降下ポイントを見つけることができない。入る人が少なくて足跡が見つからないうえ、まさかこんな急坂を降りるはずがないという思いこみからか、ずんずんと廃道を進んでしまい、いつのまにか進入路を遠く過ぎてしまったのだ。

 しかたなく荒れ果てた林道を歩き進む。道は原始に戻りつつあるが全体的には平坦であり、高度が下がっていくような気がしない。しかしそのうちに川に降りる分岐道を発見。何カ所もの崩落現場を乗り越えてワシラはついに川の上に到着したのである。
  2時間もかかったけどまずはメデタシメデタシだ。帰路もたぶん急峻な山肌の250mの高低差を一気に登るよりはマシだろう。

 
釣師ならヤマメの串焼きが本当だ

 降り着いた所は砂利場になっていて願ったり叶ったりのテン場だった。素早くテントを張って寝場所を確保したら次は一晩分の薪を集める。
 今回はちゃんとパワー配分を考えて荷物を最小限にとどめたため、炭や鉄板どころか網も串もないスパルタンな焼き肉になってしまった。堅くて乾いた木の枝を探してきて先端を削り、しばらく表面を焼いてみて、ヘンな樹液が出なければ合格だ。

 スペアリブ用の骨付きブタ肉が予想外に上手に焼けて旨かった。ナゼか。 それはオロカなことに夕マズメの入れ喰いタイムを放棄して、まだ明るいうちからエンカイに突入したからである。暗くなってしまえば肉の焼け具合なんか見えるものか。

 

 スライスして持ってきたイノシシ肉は太い木の棒には刺せないので、焚き火の中に平たい石を置いて鉄板代わりにした。 初めての試みだったけどこれが大成功。左の写真は次のメニュー「地鶏のステーキ 5月の渓谷風」だ。焚き火で焼くとなんでも旨くなる。ビールが旨い。ワインが旨い。焼酎が旨い。あーこりゃこりゃ。

 

 目が覚める前から雨の音が聞こえていた。気のせいにして寝ていたけどテントの中まで雨が降ってきた。
ナルホド。フライシートを省略してはいけないってことだ。辺りが薄明るくなったのでシブシブ起きて身支度を整え上流に向かう。
 テントから5m。最初の渡渉でいきなり胸まで水没。
どうせ雨だからいいやってことで釣り開始だ。水の透明度は高い。ブドウ虫を入れるといくつかの魚影がよってくる。白いブドウ虫が見えなくなった瞬間にアワセを入れるとアカブトが釣れた。蛇籠川は勾配が緩いからか意外にもカワムツやイダが多い。

雨の中、ちょっと変わった紋のヤマメが釣れた。鹿川とか祝子川にいるタイプだ。

ヒルちゃん。よく見るとシマリスみたいでカワイイぞ

往路は天気が良かったためか山ヒルは出てこなかった。夕方も平気だったし、夜間焚き火をしている間も出てこなかった。 キャンプ中、ヒルに襲われるのはイヤだから念のために塩を用意してきたのだ。
ヒルちゃん対策してきたのでやや期待ハズレ。しかし雨後の帰り道になって俄然たくさんのヒルが襲ってきた。気配もなく忍び寄り、痛みもかゆみも与えずにただ血を吸い取る。じつにたいしたヤツなのだ。
前回は驚いてヒルをむしり取ったところ、キズ跡が赤く腫れたまま一ケ月も治らなかった。一年後の今もときおりカユくなるくらい後遺症は深い。そこで今回はライターで炙って自分から放すようにした。これが効いたのか赤味は一週間でとれた。

無心にワシの血を吸う山ヒル

 蛇籠川は九州最後の秘境である。

 なぜ秘境か? まず今回の釣行の出発点となった竹田が過疎の町である。そこから僻地の五ヶ瀬を通って椎葉村に抜ける。この椎葉村がすでに秘境である。さらに一山か二山か越えた西米良もまた秘境である。さらにさらにゲートで閉ざされた私道の林道をクリアして山一つ隔てた川に降りるのである。川沿いには一軒の民家もない。これが蛇籠川を秘境と呼ぶ由縁である。
 下山しているときイノシシの親子が峪から上がってきて軽トラの目の前を次々と横切っていった。5頭ほどもいただろうか、ホーンを鳴らして挨拶したのだが、山に登っていったかと思うと上から石を投げつけてきた。これも秘境の野蛮イノシシだからである。

 でも決してオススメしない。
林道の持ち主の方に迷惑をかけてしまうし、峪底から山頂を見上げると標高差250mってのはとてつもない高さだ。 あっ!突然だけどここで思い出した!ヒルに結界を張るために持っていった塩のことだ。1kgで100円くらいなので軽量化のため地面に撒いて帰ったけど、これは濡れ靴に浸み込ませれば帰路のヒル除けになったのだ。しまったー。

 



秘境の眼鏡瀧

 左側の滝の上部を見ていただけないだろうか。水はアーチ状の岩の下を通り抜けて落ちている。 蛇籠川にはこのような眼鏡滝がもう一カ所あるようだ。 川師だけに許された珍しい景色である。