テンカラ入門記


1992年に中国で初めての国際フィシングショーが開かれた。場所は北京である。天安門広場に近い会場で、中華釣り大人が諭すように教えてくれた。
「釣りに必要なのは竿と糸、浮き、オモリ、針とエサの6点である。道具は6品さえあれば必要十分であり、それ以上でもそれ以下でもない」
なるほど、中国で6という数字はおさまりがいい。新参者のリールなんか無視されたようだな。

テンカラ釣りは、6点どころか3点だけでできる究極のシンプル釣法だ。
それでいて、エサ釣り以上の成果が得られるらしい。釣り雑誌でもそのように紹介されていて、ここでエサ釣師のこころはころころと動いた。
じつはワタシは常々、エサが可哀相でならなかった。川虫でもミミズでも釣鈎を刺そうとすると「あっ!なんだなんだやめろやめろ」と言わんばかりに身をよじって逃げるのである。クロカワ(巣ムシ)なんかは、怒りのあまり噛みついてくる! この抵抗に心理的に負けたワタシは、ついにテンカラ釣り大作戦を敢行することにした。

 挑戦するのは、エサ釣りのナチュラルドリフトに近いレベルラインテンカラである。

テンカラのメリット
1:エサが要らない。これが一番重要なポイントだ
2:持ち歩く道具が少なくて身軽
3:仕掛けがシンプルかつ太くて長持ち
4:チャラ瀬につよく夏でも釣れる。昼間も釣れる
5:表面から抜き上げるので一カ所で何匹も釣れる
6:エサ釣りよりも遠くのポイントを狙える

デメリット

1:頭上とバックのスペースがないと振り込みにくい
2:魚影を見ながら合わせるので視力が要求される
3:時期を選ぶし、虫が飛ぶ温度にならないと釣れない
4:エサ釣りよりも風の影響を受けやすい
5:やっぱエサよりも喰いが悪いでしょう

当HP奇跡の成果!テンカラの語源はコチラ

フライとテンカラの違い

1:飛距離の違い。テンカラはリールを使わないからあまり遠くは狙えない。
  達人になると10mものラインを飛ばすものの、フライにはとうてい及ばない。しかし、
  近くとか瀬を釣るのなら、手返しが速いテンカラの勝利!

2:フライでも瀬をやれるけど、もともとイギリスの緩やかな河川用に発達した釣り方。
 テンカラは連続した瀬にめっぽう強く、狭い日本の川に向いている。

3:フライは道具の楽しみ。テンカラは少ない道具でまかなう手練れの川漁師。

4:大きく違うのはそのリズム。テンカラ釣りはテン・テン・パッ!の秒殺勝負。

5:ラインを水に浸けないのがテンカラ。鈎と毛バリの間のラインが、渓流の複雑な
 水流に引っ張られて不自然な動きをすることがない。

6:本質的に違うのは、フライがマッチ・ザ・ハッチで毛バリのイミテーション性の高さ
  で喰わせるのに対し、テンカラは誘いの精妙さで喰わせることだ。だからテンカラ
  師は毛バリの精巧さにこだわらない。(らしい)



縒り糸を使ったテーパーラインと違って、レベルライン釣法では単糸を使用する。重いテーパーラインでは、その重さに引かれて毛バリが手前に引き寄せられるため短い距離しか流せない。これを業界用語で「オツリがくる」という。軽いレベルラインは長い距離を流せるから、それだけでも2倍の釣果が見込めるらしい。
糸の重さだけで毛バリを飛ばすために、ナイロンよりも重いフロロを使う。これには4号が最適であり、しかもトヨフロンのLハードがベストだという。実際に買ってみるとかなりピンピンした感じだが、これがテンカラに向いたラインとのこと。

竿は6:4調子で3.3mが標準だと判った。それに道糸をチチワで結びつける。道糸4号とハリスの強度的・重量的バランスをとるため、2.5号の道糸を挟んで、全体で3段にした。電車結びで直結である。ハリス(先糸)は、毛バリを浮かして流すならナイロンがいいだろうと思ったが、フロロのシーガーエース0.8号を使えと書いてある。重さと糸フケ、アソビのバランスがいいらしい。

道糸とハリス(リーダー)は8の字結びで直結する。ハリスを交換するたびに短くなってもいいのか?納得できないのでチチワにしてダンカン・ループノットで結んでみた。風切りとか水の抵抗とかの問題はないようだ。現場では面倒なので直結にした。どちらでも大丈夫ってことだ。

道糸は水面につけないのがコツらしい。ならば、と思い立って超小型のウキ型渓流目印をチチワの真上につけてみた。これで初心者でもナチュラルに流せる。と思ったが、これはアイデア倒れ。実際にやってみたら一部分だけが重いので、バランスがわるく糸絡みをおこすだけだった。しかもウキが目立ってしまい、毛バリをアピールできない。
これは失敗
ラインと竿の角度を90度にするためには4.5mのレベルライン+ハリスで全長5mくらいが適当らしい。竿が3.3mなら、竿尻から1.7mのバカがでることになる。いくらなんでも長すぎるので、バカを1mにした。手をいっぱいに挙げたときに毛バリがヘソの位地にくるくらいなら問題なく扱える。

テーパーラインは3秒勝負だから、あまり毛バリの出来にこだわらなくて大丈夫だけど、ナチュラルで流すとニセモノだと見破られてしまう。フライ用の毛バリを流用すれば大丈夫らしいが、市販品を買うと、1本が300〜500円と、消耗品にしてはサイフにこたえる値段だ。


入手したテンカラ竿は3.3m。思ったよりも長いけど、さすがレベルライン用だけあってうまく飛ぶ。庭に洗面器を置いて練習してみたら1時間ほどで50cm以内に落とせるようになった。たった65gしかないのに、ビュッと振り上げるのに結構な力がいって疲れてしまった。
あっ!それで、買った竿にシールが貼ってあって、そんなもの、めくれてイヤなので剥がしてやった。少しでも軽くなるじゃん。ところがべたべたの糊をアルコールで拭いてビックリ!!紙のシールは仕上げ塗装の下に貼ってあったんですよっ!紙シールを剥がしたら透明の塗装までとれてしまった。こんなことでいいのかシマノっ!ばかっ!

渓流で一番いいのはもちろんニセのフライなんかでなく、生きたカワムシである。ところが捕るのがかなり面倒だったりする。そこで余ったヤツを冷凍にしてみた。いいアイデアだと思ったが、密封しておいたのに、いざ使おうとするとフリーズドライ状態になっていた。お湯をかけて3分待ったけどダメだった。

雑誌とビデオによる研究の結果、一口にテンカラといってもいろんな釣り方があって、仕掛けも千差万別だとわかった。それでテンカラの語源はテンカラーだなんて冗談がある。10人10色ってことだ。意外なことにオモリを使ってもいいらしい。で、このオモリ。ナマリともガン玉ともジンタンともシズともいう。たぶんシズは沈めるからで、これは英語でシンカーというのと同じだ。
フライの人はショットともいう。英語でショットといったら注射のことだ。injectionよりも普通に使われる。ナイスショットならゴルフ。ビッグショットなら大物。バンブーショットなら筍(タケノコ)。ウィスキー一杯もワンショットだ。このショットは何だろう?ガン玉のガンってのは銃のガンのことらしい。散弾銃の玉に割れ目を入れて使ったのが始まりだと聞いた。ならば、ショットはショットガンのショットだ。

ドイツのショットはとにかく長い! コータックの長いオモリはラインと接する面積が広いので、ラインに傷がつきにくい。軽く咬みつけてもズレないのがメリット。

「やませみ」という、今はもう廃業したフライショップでバイスやマテリアルを揃えて、毛バリの作り方を教えていただいた。自分でいくつか巻いてみたら、まあこれが、結構ソコソコにできるのですね。フライの本を身ながら練習したら、何個に1個かはもう、お手本にソックリ!ちょっとハマリました。

自作。いいなあ。いい出来だぁ
これも自作

さて、実際に川でやってみると「案ずるより産むが易し」とはこのこと。
ラインの巻きグセをとるために、引っ張って伸ばしながらリリアンに取り付ける。それでもカールが残っているから、竿を左右にヒュンヒュン振ってクセをとりつつ、同時にタイミングをはかる。これを前後にやればいいのだ。一発では難しくても、空中で何度も距離を測ってから、ポイントに打ち込めばいい。難しく考える必要はなかった。ただ、ラインがフロロの4号で剛性がつよいので、途中で確認しないとブショウ付けが外れることがある。それ以外はスピーディこの上なしだ。見えてなかったヤマメがスッと現れて、毛バリを追ってくるのもスリリングでなかなかヨロシイ。居付き場所の研究にもなる。

片山悦二のビデオで勉強したけど、ドライで浮かせて流す必要はないみたいだ。
テーパーラインほどループの動きが滑らかではないけど、レベルならまるでエサ釣りのように沈めて釣れる。驚いたことに置き竿でも釣れた。渓流魚は動きでエサを認識する。止まっているときに、自然に誘いの動きになったんだろう。あとはこの誘いを意図的にできるようにすればいいのか。
ただ、テンカラだけで一日遊べる川が少ないのが残念。瀬を移動するスピードが速いだけにすぐに1本終わってしまう。やっぱ朝マズメはエサで釣って、気温が上がって、いい瀬が連続していたらテンカラだね。水深30cmでも釣れるのは強みだ。まだ釣果はエサの半分いかないけど、かなり面白いよ。

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