バーガースタンド

 

ワインは一杯100ペセタ

 スペインでは、5☆クラスホテルの超高級バーでワインが一杯200pts。日本円でまあ200円くらいのものだ。
100ペセタは135円だったり65円だったり。変動して一定ではないけれど、平均すれば100円見当が生活実感で、現地に住む日本人たちも気軽に100ッペと呼んでいる。

 五つ星のホテルでグラスワインは一杯200ペと高価(!)
だが、街中ならどこに行っても100ぺが相場である。99%がリオハ産。ビールも一杯100ぺ。スペイン語でビールはセルベッサだけど、現実には誰もそう呼ばない。ビールはその入れ物によって呼び名が違っていてコップに注がれた場合はカーニャである。このカーニャが一杯100ぺ。つまり100円なのだ。

 現地在住のK嬢と、アルゼンチン出身のマルチンと、その友人の3人で郊外にキャンプに出かけ、田舎のバルでビールとワインを飲んだという。村に一軒しかない小さなバルだ。キーパーのオバさんがひとり。世間相場では、おつまみのオリーブは無料のことが多い。定食屋の漬け物感覚だね。スライスしたパンの上にオカズを乗せたカナッペになると、無料のことも有料のこともあって、これは勘定を払うまで判らない。

 その田舎バルで、3人の街ネズミが、そこそこ飲んでそこそこ食った。
さて、お勘定の段階。

 K嬢:「いくら?」
 ババ:「100ペセタ」
 K嬢:「一杯100ッペは判ってるわよ。全部でいくらって聞いてるのっ」
 K嬢は怒りっぽいのである。
 ババ:「だから全部で100ペセタだって言ってるだろ!」

 どうです。実話ですぜ。
あとで詳しく聞いたところ、ひとり2杯は飲んだとのことだった。ミニマム6杯+おつまみいくつかで100円。どうです?スペインの実力。でも、もうペセタはユーロになってしまった。こんな時代に出会うことは二度とない。

 ガリシアにはこんな陶器のおチョコがある。お神酒みたいなので喜んだらマルチンがお店から盗んでくれた。2個ね。ボクが頼んだのだ。このサイズでも一杯100円。少し高いな・・


ヤギ男の謎


 1993年、英国バーミンガムでの出来事。
BirminghamとかChippenhamとかイギリスにはhamのつく地名が非常に多い。このハムとはhamletのことで、別にハム作りの工房があった訳ではなく、またあのハムレットとも関係なくて、村という意味の古い単語である。もとは村だったかも知れないが、現在のバーミングハム(略してB'ham)は英国第二位の大都市になっている。

 夕暮れ時に街中を散歩した。
何回か訪れたことのあるなじみ深い街だけど、このときは初めてのストリートを歩いた。道幅は狭いものの、近代的なカラーの石畳みで、両側には商店が連なってにぎやかだ。タバコ屋なんかもあるな。
と、突然、「メエ〜」っとなく声がする。調べてみると、タバコ屋のカドに突っ立っている男が、うつむいたまま大きな声で「メエ〜」っとないているようだ。う〜む。
 
 身なりはあまりヨロシクない。あぶないオジサンかも知れないので、やや離れた場所から観察した。やはりときおり思い出したようにヤギ声で「メエ〜ッ」となく。怪奇ヤギ男との遭遇である。
このような奇妙な現象が目前で起こっているというのに、通行人は平気で通りすぎていく。他人のことに無関心なのは都会の人々の困った特徴である。
と、そのとき、一人の紳士がヤギ男に近づいていく。ぼくは心の中でその紳士の勇気を賞賛した。しかし、紳士はヤギから新聞を受け取っただけで立ち去ってしまった。
 
 「メエ〜」
の正体はいったいなんなのか?
途方に暮れていると、通りすがりの親切なジモティが教えてくれた。ぼくがメーメー独り言をいっているので、危機に気がついて助けてくれたのだ。

 彼によると「メエ〜」とは「mail」のことである。あの手紙とか郵便のメールだと思う。バーミンガムには昔、メールという名の新聞があって、いまでもその名残りで新聞のことをメールと呼ぶらしい。
ヤギ男はメーメー啼きながら新聞を売っていたのだった。

 


ホテルのミエ朝食


 その、バーミンガムの街で3連泊したことがある。
フレンドリーグループという、街中にある2階建ての、部屋数がやたら多いホテルだった。安いくせにプールとジャグジーがついていて、ナマイキにも水中照明されているのがリゾートっぽい。朝食はそのプールを見下ろす2階の食堂で食べる。
最初の朝、ウェイトレスが注文を聞きに来て、「イングリッシュ ブレックファストにしますか、それともコンチネンタル スタイルにしますか?」と問う。典型的なイギリス英語の、それも客商売用のアクセントが心地よい。

 もちろんイングリッシュである。
三角形のブラウントースト+ジャム&バター。ミューズリー、ベーコン、オムレツ、マッシュルーム、植物性ソーセージ、焼きトマトにミルクとオレンジジュース+コーヒー or 紅茶のフルセットである。
シリアルは食べ放題だし、うまくいけばキッパーやベーコンの親玉であるギャモンステーキが食べられるし、いいホテルなら、ピンピンカリカリのメルバトーストだって夢じゃない。

朝食はホテル代に含まれているのだから、トーストとコーヒーだけのコンチネンタルなんて頼むわけがない。来たのは、ごく平均的なホテルの朝食セットだった。2日目の朝もイングリッシュにした。当然ながら、まったく同じメニューである。
さすがに3日目にはヘビーになってきたので、ウェイトレスにコンチネンタルをお願いした。

 半分ほど食べ進んでからハッと気がついた。
 「おんなじメニューだっ!」
 連れの英国人が笑い出す。

 「メニューは一種類だけだよ。このクラスのホテルで朝食はチョイスできないもんだ。ロンドンの超高級ホテルなら別だけど、イギリスではコンチネンタルの朝食なんて出さないよ」


 「でも、じゃ、なぜ聞いてきたのさ?」

 「シャレだよ。高級ホテルみたいでカッコイイじゃないか。客はみんな、イングリッシュしかないって知っててオーダーしているんだ」

イギリスではこういうことが起こる。

 


歩く空港


 ヨーロッパのどこかの国からBA英国航空でロンドンに向かったときのこと。
はっきり覚えてないんだけど、たぶんガトウィック空港だったと思う。ロンドンには長距離便のヒースロー空港以外にガトウィックという空港もある。ちなみにヒースローとは地名ではなくて、あのような低くてなだらかな地形のことだ。意外にもヒース(heath)の花は関係してない。
  ガトウィックは地名である。ウィックのもともとの意味は「農場」だから、ガト農場という名前の空港になる。あ
まり知られていないが、年間発着20万機の近代的な大空港である。
 
 到着間近になって機長のアナウンスがあった。お昼ごろだった。
「こちらは機長のナントカです。本日は英国航空をご利用いただき有り難うございます。当機はあと何分でロンドンに到着する予定です。現地時間は・・・」 というお決まりのやつだ。

 でもその後が驚いた。

 「気温は何度。雲ひとつない快晴で、イギリスには珍しくとてもいい天気です。ウォーキングにもってこいですよ。この飛行機をターミナルから離れた場所に停めます。迎えのバスも呼びません。素晴らしいお天気ですから、みなさんお散歩しましょう」

 飛行機はホントに離れた場所に停められ、迎えのバスも来なかった。
たぶん機長はバス係の誰かとケンカしてバスを手配して貰えなかったのだと思う。事実は分からないが、とにかくお天気は最高だった。
ぼくらは広い滑走路の横を歩いてターミナルに向かった。実際それはすごく気分が良かったし、歩くのにちょうどいい距離だった。

 


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