ぼくの腕時計はダニアという国産のブランドで、当時としては珍しいダブルフェイスである。渋谷の東急ハンズで衝動買いしたものだ。 買った当時、ぼくは二つの文字盤は一つのムーブメントによって動いていると信じていた。あるとき、それは買ってから一年以上たってからだけど、上の文字盤の針が止まってしまった。 残りの、下側の時計は動いていたので、やっとぼくは二つの文字盤がそれぞれ違うムーブメントで動いていたことを知った。 まさかダブルフェイスが、そんなに単純な方法だとは予想してなかったので少しだけ感動した。でももっと感動したのはその後だ。その日のうちに残りの時計も止まってしまったのである。さすが日本のテクノロジー、おそるべき品質管理の成果である。そこで電池を交換した。小さな電池だったが2個分なので2000円のダメージを受けた。 さらにおよそ1年後、また同じ日に両方とも止まってしまった。婦人用の超小型ムーブメントを2つ搭載しているだけなので電池も相応に小さくて長持ちはしない。でも、上の時計には秒針がついているだけ負担が大きく、下の時計はそのぶん楽なはずなのに、それでも同じ日に電池が切れるという品質。この時計はぼくの自慢だった。でも国内ではふだんダブルフェイスの出番はない。午前は上を、午後には下を見るくらいが精一杯の利用方法だ。でもとうとう出番がやってきた。ヨーロッパへ一ヶ月近い出張である。 |
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ゼンマイを使い終わって自然に止まった手巻きの時計。12時ちょうどを示してピタリと止まった。これも小さな奇跡かも。 |
上を現地時間にして、下は日本時間のままだ。日本に連絡するときに必要だから調整するのはどちらかひとつだけである。イギリスからスペインに移ったときに1時間だけ時差を調整した。スペインからフランスに移動するときもサマータイムへの突入日が違うので1時間調整した。ヘルシンキでもまた1時間調整した。ヨーロッパはそれぞれ自由な時間を持っているが、すべては順調に一ヶ月が過ぎた。 ぼくの時計は、日本に帰った今でも、1時間だけヨーロッパに近い時間を示している。たぶん時間とは、みんなの共通の時間ではない。それぞれの心が創りだすのだ。遙かなるヨーロッパ。小さな奇跡が呼び起こす記憶。 |
謎の S.TKO |
この腕時計のウラブタには TO USE
ONLY ON PLANET EARTH と書かれていて、なかなかかっこいい。革ベルトが少しくたびれているが、これは僕の汗に猛毒が含まれているからなのだ。 S字型の針が秒針。12時を指しているのが分針。時針はなく、透明な文字盤が回転する仕組みである。NEW YORK とか PARIS が回転するわけだ。TOKYO は分かる。でも S.TKO とはなんだろう?こんな都市はないよね。赤文字で書くほど重要なことなのか?ナゾだ。 |
答え: |