孤独なあなた

 人間は立っている。
自然界で立っているものの代表格といえば樹木である。もちろん電信柱やペンギンも立っているけど、都合がわるいのでここではとりあえず除外する。
 人間は、自分が立っているものだから樹木に自分を投影してしまうことがある。
心理テストで有名な、バウムテストという方法では、いくつかのルールのもとに一本の樹木の絵を描いてもらう。描かれた絵にもすごいたくさんの、その人を知るヒントがあるのだけれど、その解釈以上に、テストに臨む態度を観察することも重要である。
たとえば、被験者は真面目に課題に向かったかとか、とりかかる前に質問があったかとか、消しゴムを使って何度も訂正したかとか。ま、いろいろであるが、自信がないので詳しくは専門書にまかせたい。

 ここでは自分に対する気づきを得ることを目的に質問してみる。

1:
その木が生えているのはどんな場所ですか。もし、まわりにも木が生えているとしたら、それはどんな木ですか。(何歳くらい・何本くらい・勢いはある/ない)それらは誰かあなたの周りの人の象徴ではないでしょうか?

2:
あなたが描いたこの木はなにか特定の種類の木でしょうか。(いつも元気な常緑樹/気分を反映しやすい落葉樹/記憶の中の思い出の木?) なぜこのような木を描いたのか思いあたることがありますか。

3:
私にはこの木の葉っぱが(多い/少ない)ように思えるのですが、季節はいつ頃でしょう。その季節が好きですか  なにか思い出がありますか。

4:
じつは、木は描いたご本人のシンボルであると言われています。この絵はご自身をあらわしていると思いますか。もしかりに自分自身をあらわしているとしたら、どのような共通点があると思われますか。

このように、マルバツではなくオープンな形式で、相手に喋らせるように質問していく。
たとえ地面から直立しているという類似性があっても、常に木=人間ではない。また、ヘビやローソク、ドアノブがいくら男性器の象徴とはいえ、すべてのケースにあてはまるわけではない。教科書的な判断に陥らず、目の前にいるクライアントを常に信頼の主軸にすえること。どうせ心理学なんぞ人間の心理をどうすればうまく説明できるかという後付けの学問である。考えようによっては占いのオマケでもある。あまり権威に感じないでいい。

で、どうです。上の写真。群れから離れて一人で生きる木に、なにかご自分との共通点を感じませんか?

 


ではここで、アドラー派の極意的カウンセリングをご紹介させていただきます。
当HPの管理人いけだが、アドラー派心理学のお勉強中に、先生カウンセラーから聞いたお話です。古い話なのですが、すんごいトリッキーなのでぼくのツボを突きました。

 本邦心理学界の大物である某大学教授が、我がアドラー派にカウンセリングに見えられた。この教授はイニシアルだけでそれと判るほどの有名人で、日本カウンセリング界の一大権威である。どこの書店に行っても著作が並べられているほどの重鎮が、わざわざアドラー派のカウンセリングを受けに来られたのだ。

 アドラー派は虎の威を借るような権威づけを嫌う。自分をより以上に見せる誇大広告を嫌がるのだが、そこはそれ生身の人間にとって有名人に会えるのはやっぱ興味深いものだ。セレブカウンセラーを前に、アドラー派カウンセラーはちゃんとしたカウンセリングができるだろうか。
重鎮氏に応対したのは初級カウンセラーである。なんとアドラー派に中級者は(たぶん)一人だけしかいない。ほかはみんな初級である。謙虚に見えるし、自分はまだまだ駆け出しですからと、うまく行かなかった場合のエクスキューズに使えるのがメリットである。

 さて、重鎮氏の相談内容は、
「家内が食事の後かたづけをしろとウルサイ」であった。
お年を召した重鎮氏には、「男子厨房に入るべからず」という教育が身に染み込んでいる。地位も名誉もある自分に皿洗いなんかできない。学生の前では威張っている教授が、家では奥さんのお尻に敷かれて皿洗いをしてるなんて、みんなに知られたら恥ずかしい。
 奥さんはその道では有名なリベラル派である。
「あなたは古い。もう時代は変わっているんですよ。心理学のセンセイが口だけの男女同権を説くのですか」。

「どうしたらいいんでしょう。家内はまるでウーマンリブの論客なんだ。そりゃ理屈はそうかもしれないがワタシはそんなのイヤだ。疲れて家に帰ってきて皿洗いなんて・・」

 双方の言い分はもっともである。どちらも我慢せず、どちらも傷つくことのない解決方法なんてあるだろうか。
われらが初級氏はまず、重鎮氏に抵抗させないための心理操作をする。
 「いやあ先生、それに持ってこいの素晴らしい方法があるんですよ。ホント効き目あります。でも先生やってくれそうにないなあ。実際にやってくれないんじゃ意味がありません。先生はもうお年だから新しい方法にトライするのはムリでしょ?」

 重鎮氏はたったこれだけでやらざるを得なくなった。
その秘策とは、次に奥さんから食事の後かたづけを言われたら、耳元で「アイラブユー」とささやく。たったそれだけの方法である。なにがなんだか判らない。知能派同士の攻防に、まるで禅問答のような珍戦術を授けたのである。この作戦のどこにどんな合理性が隠されているのだろう!? 

 しかしこれが効いた。
お年を召した先生はこれまで奥さんにアイラブユーを言ったことがなかった。逆にいえば、奥さんはこれまで男性からアイラブユーをささやかれた経験がなかった。
 奥さんは、こんどこそ後かたづけを手伝ってもらおうと、意を決して重鎮氏に攻め込む。反論なんか絶対許さない戦闘モードなのだ。そしたらなにをトチ狂ったか、ダンナが耳元に口を寄せて、優しくアイラブユーを囁くのである。事態は一瞬にしてウレシハズカシの世界にワープした。奥さんは混乱して対応策がとれなくなり、とりあえず今日の片づけは自分でやってしまった。

 作戦がうまく行って、重鎮氏はこう考えた。
「皿洗いは男子の沽券に関わることだ。この年でアイラブユーも恥ずかしいが、背に腹は代えられない。皿洗いをせずに済むならアイラブユーくらい言おう」。
 一方、奥さんは思った。
「よく判らないけど、アイラブユーを言って貰えるなら、後片づけくらい自分でやってもいいかな。どうせ今まで全部やってきたんだし」。

で、どうです。だれも傷つかずに解決しちゃったでしょ。

 

こんなHPとは思わなかった。トップページに戻る