鶴は高度1万メートルを飛ぶ!

 


 
北極点から見た地図

 1994年9月19日、シベリア上空を西へ向かうルートでロンドンに行く途中のことです。
大韓航空、KEと呼ばれる安い飛行機でした。福岡からソウルの金浦空港で乗り換えて、ロンドンに向かいます。私は左側の窓辺の席に座っていました。
 出発してから数時間、現地時間ではたぶん昼ごろに、ウラル山脈の東方約500Kmのあたりにさしかかりました。機内誌の地図のページを広げて航路を確認すると、IGARKAの上空にさしかかったのが分かりました。
 地図に載っている割りにはかなり小さな、ぱっと見で人口数千人くらいの町です。定規で引いたようにまっすぐな道路が、雪原のはるか彼方まで伸びていました。
 空気が澄み切っていて雲がほとんどありません。そのKE機のスクリーンには、現在位置と高度や気温などの情報が映し出されていました。外気温はマイナス54℃、高度35,000フィートです。視界は最高にクリアで、たまにジェット戦闘機とすれ違います。ジェットトレイルが遠方までつながっているのが見えました。
 
 そのとき、突如、まぎれもない一羽のツルが視界に飛び込んできたのです。
飛行機の直下。たぶん50メートルかそこらの距離だと感じました。高度35,000フィート約10,700m (1foot=0.3048metre)の高空です。全身黒色のナベヅルではありません。ナベヅルは鍋の底のようにマックロだから分かります。その鶴には新撰組のハッピのように袖に黒い模様がありました。たぶん丹頂ヅルかソデグロヅルかマナヅル。種類までは判りませんが、翼を広げたまま東向きにグライダーのように飛んでいるのを目撃しました。
 この高度を無謀な単独飛行です。いま思えば、寒さから身を守るため、血液は脳と内臓だけに集中していて、酸素不足のため朦朧としたまま、自動航行モードで省エネ飛行していたのでしょう。エンジンにでも吸い込まれたらビックリして目を覚ましたかもしれません。
 イギリスに着いて、迎えにきてくれた現地スタッフのジェリーに話したら、「酸素マスクなしかい?マフラーはしていた?」との返事。さすがイギリス人だ。

 1981年10月にはインドガンかソデグロヅルらしい鳥の群が、ヒマラヤの上空を飛んでいるのが日本の登山隊に偶然 目撃されています。編隊飛行している写真が雑誌に掲載されたので覚えてらっしゃる方も多いでしょう。K2は8,610m。エベレストは8,850m。どちらにしても山頂の高さまで飛ぶ必要はないので、鳥類の高度世界記録はせいぜい8,500m程度と考えられます。
 私の目撃した単独行のこのツルは、未公認レコードホルダーかもしれません。


true story by Kiyotaka Ikeda in Fukuoka
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